より希少性が増す日本の夏の風物詩、“野菜”としてのとうもろこし
- 秋山 智美
- 7月18日
- 読了時間: 5分
前回は世界で生産が拡大する“穀物”としてのとうもろこしについてお伝えさせていただきましたが、今回は日本の“野菜”としてのとうもろこしについてご紹介させてください。
今後、農業の大規模集約化が加速していくであろう中、私自身が豊かさを感じる多様な野菜を栽培するような農業形態の持続が益々難しくなっていくのではないかと考えています。その中でも栽培の継続難易度が高い野菜の象徴が“とうもろこし”なのではないかと感じており、その背景をお伝えできればと思います。
加速する大規模・効率化と、失われていくであろう多様性
2025年度に続き2026年度上半期も過去30年間での農業法人の倒産件数が最多となり(東京商工リサーチ調べ 2025年度通期 2026年度上期)、高齢化による引退ではなく経営が立ち行かなくなる、というケースが増加しています。他産業と比較して相対的に経営体力が低い中、生産コストの上昇を価格転嫁し切れていない状況や、猛暑や豪雨・旱魃(かんばつ)などの気候変化など、農業を継続していく難易度が増していると認識しています。
「令和7年度 食料・農業・農村白書」より抜粋
農林水産省 農業物価統計調査(令和2年基準)より作図
帝国データバンク「価格転嫁に関する実態調査(2025年7月)」より引用
一方で食料安全保障の観点から、国内での農業を産業として成立する形にしていく必要性があり、その大きな方向性として、農地の集約による大規模化・大規模な農地でのスマート農業の導入等による効率化が促進されています。
更に自宅での調理頻度の低下という食生活の変化等による、加工用・業務用野菜のニーズ拡大もあり、生産~流通~消費に至るサプライチェーン全体の効率を優先した力学も加わり、より工業化された農業への変化が加速するのではないかと思われます。
全体で考えるとこの変化は必然的である一方で、これにより失われ兼ねないのが、私が豊かさを感じる、大規模な農地で生産量を確保できる単一品目を作ることと比べるとどうやっても非効率になってしまうような、味に極限までこだわった野菜を作ったり、多様な作物を作ったり、生態系への負荷がより小さかったり、気持ちよい山間にあったり…、効率は一定大切にしながらもそれを越える個性、こだわり、魅力を持った農業の形です。生活者の立場からすると、効率化は安い価格として反映されるメリットがありますが、そこだけを追い求めると、意図せず失いかねない豊かさがあると感じており、生活者の意識の大切さを再認識しています。
希少性が増すことが想定される、とうもろこし
効率化の波の中で、その影響を真っ先に受け栽培の継続難易度が高まっていく野菜の筆頭が、収益性が低く、大規模化もしにくい、とうもろこしではないかと感じています。
面積あたりの収穫量の少なさ
1本のとうもろこしの株から収穫できる実は基本的に1本。1株からたくさんの実を収穫するトマトやピーマンなどの夏野菜とは比べ物にならないくらい、1本のとうもろこしを収穫をするのに必要な畑の面積が広い野菜です。
以下は長野県における10a(1,000㎡)当たりの生産量です。これに1kgあたりの単価を掛けた粗収益の指標を見ても圧倒的に低く、生産量が同じくらいのさやいんげんの1/3以下、単価が安いはくさいのの半分程度と、収益を上げにくい野菜ということを認識いただけるのではないかと思います。
長野県 作物別経営指標(一覧表)より抜粋
跳ね上がる肥料コスト
実を食べる野菜全般で言えることですが、とうもろこしも例外なく、葉物野菜や根菜などと比べて多くの肥料が必要な野菜の1つです。美味しさを追求すればするほど、さらに多くの肥料が必要になることに加え、ここ数年の肥料代の高騰も相まって、生産コストが跳ね上がっています。
虫や動物による食害の多さ
甘くて美味しいとうもろこしは人間だけではなく、虫(アワノメイガ)や動物も大好きです。虫が卵を産み付け幼虫に実を食べられたり、まさに収穫というタイミングで鹿やハクビシンに食べられてしまうことも。最近は気候の変化もあり、アワノメイガの被害抑制難易度が上がっているとのこと。
大規模・効率化のメリットがない
面積あたりの生産量が少なく、重量当たりの単価も安く、生産コストもかかる、とうもろこし。虫や動物の食害や気候変化への対応のための栽培の工夫は必要な一方で、他の野菜と比べて手間そのものが多い訳ではありません。そのため、スマート農業などでの効率化による生産効率改善の余地は大きくなく、収益性を上げるには、食害を減らす技術力による収穫量の改善、販売価格の上昇くらいしかないように思います。また、収穫時期が極めて短期間に集中するということも、大規模化をしにくくする要素の一つです。
“穀物”としてのとうもろこしとは反対に、世界における生産量が減少しているというのが、このことを物語っているのかもしれません。
GROBAL NOTE収録のFAO出典データをもとに作図
一番美味しい時期に一番美味しい状態のとうもろこしを食べる!というところから始まった、「コーン期 夏の風物詩 ー野祭ー」ですが、改めて、それだけに留まらない、これから益々重要になる価値を秘めた場なのではないかと、再認識しています。 次回は、イベントを開催させていただく場でもあり、希少になりつつあるとうもろこしを意志を持って作り続けているのらくら農場さんについて、改めてご紹介させてください。
