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放射線を利用した品種改良

  • 執筆者の写真: 秋山 智美
    秋山 智美
  • 2024年1月13日
  • 読了時間: 5分

先日、子どもやさい研究会でホウレンソウを栽培した方から、「一部を食べずに育て続けて、種を取ってもう一度育ててみようと思います」という話を伺いました。ご存じの方も多いかもしれませんが、普段食べている野菜や購入する種はF1種(雑種第一代)と呼ばれるものがほとんどで、その世代では品質がとても揃っているのですが、その次の世代を育てると品質がばらつきます。 その仕組みについて研究会で学ぶ準備を進める中で、昨年末に「あきたこまちR」という放射線を利用した品種改良で生まれたお米の安全性についてニュースで話題になっていたことを思い出しました。既に各種ニュースでご存じの方も多いかもしれませんが、今回は改めて放射線を利用した品種改良について、少しお伝えできればと思います。

品種改良の概要

以前、こちらのブログでもご紹介をさせていただいたのですが、品種改良は遺伝子の変化により行われ、農耕が始まって以降、以下のように様々な品種改良が行われてきました。自然界でも起こる突然変異を人為的に大量に発生させ、その中から良い品種を選び出す方法の一つとして、放射線が使われています。放射線は品種を生み出すときに利用するだけで、実際に流通する作物そのものに照射をする訳ではないため、放射線被ばくをしてしまうということは全くありません。

1.自然界からの選抜 自然界での交配、突然変異などにより生まれた、使いやすい種を選抜することから始まりました。突然変異は、紫外線などにより切断された遺伝子が元に戻らずに別の並びになったり、何等かの理由で別の生物の遺伝子を取り込んだりすることで起こります。 2.人為的な交配 例えば、美味しいけど弱い、美味しくないけど強い、という種を掛け合わせることで、美味しくて強い種を作るという、交配による方法です。品種改良と聞いて、まず最初に思い浮かべる方法かもしれません。野菜ではないですが、無精卵をたくさん生み続ける鶏などの家畜も、それにふさわしい特性を持った個体を選んで交配をし続けた産物です。 3.人為的な突然変異 自然界でも起こる突然変異を、放射線の照射や化学物質により大量に発生させ、その中から良い種を選び出す方法です。狙った性質の作物を作ることはできませんが、膨大な遺伝情報を読み解かずに有用な品種を生み出せる可能性があります。 4.遺伝子組み換え(GMO) ある生物に別の生物の遺伝子を人為的に組み込むことで、目的の性質を持った種を生み出す方法です。交配が不可能な生物の遺伝子を組み込むことができるのが、大きな特徴です。利用したい農薬への耐性を持った微生物の遺伝子をトウモロコシに組み込むことで、農薬に強いトウモロコシを作る(雑草は生きられないが、トウモロコシは生きられる)ということが、可能になります。 5.ゲノム編集 その生物の遺伝子の特定箇所を酵素などを使って切断することで、狙った性質を抑え品種改良を行う方法です。野菜では、GABAの生成を抑える部分を切断することで、GABAが豊富なトマトが作られています。

放射線を利用した品種改良の歴史

1920年代にX線を照射することで突然変異の確率が高まることが分かり、農産物として実用化されたのは1950年代にはスウェーデンで開発された大麦です。日本で初めて実用化されたのは「ゴールド二十世紀」という梨で、美味しく品質も良いものの病気にかかりやすく大量の農薬散布が必要だった「二十世紀」梨から、1960年に生み出されました。 その後、冷害による大凶作をきっかけに寒さに強く倒れにくい品種として1966年に開発された「レイメイ」というイネを始め、ムギ、ダイズ、レタス、モモ、ナシ、キノコなどの食用の作物、キク、ベゴニア、サツキ、バラ、トルコギキョウなどの観賞用の花、日本酒や焼酎、味噌、醤油などに使われる麹菌や酵母菌など、50種類以上の作物、320品種以上の品種が、放射線照射による品種改良で生み出されています。


あきたこまちRから考える今後の放射線を利用した品種改良

秋田県庁のHPによると、「あきたこまちR」は人体に有害なカドミウムの吸収量を抑えた品種として、国際的な基準値を意識して開発をされていることが分かります。

国内における米のカドミウム基準値が0.4ppmであるのに対し、海外では、より厳しい基準(※)が設定されており、それに合わせて国内基準が見直されても対応できるようにする必要があります。 米産県である秋田県としては、どこよりも早くカドミウム低吸収性品種を導入し、従来の「あきたこまち」から「あきたこまちR」に切替えることで、国内外の消費者に、これまで以上に安全な米を安定的に供給し、食料供給基地としての使命をしっかりと果たしてまいります。  ※海外における米のカドミウム基準値は、香港、シンガポールで0.2ppm、EUで0.15ppmとなっています。 https://www.pref.akita.lg.jp/pages/archive/73119

また、肥料を輸入に頼っている日本において、肥料として汚泥の利用も検討していく必要があるであろう中で、このような重金属の吸収量を抑えた品種改良の必要性は、より高まっていくのではないかと思っています。 一方で、放射線を利用した品種改良に限らずですが、どこまで人為的に生物を作っていいのか?という倫理的な問題は付きまといます。菌や微生物では既に利用されている中で、家畜はどうなのか?食用の昆虫は?ペットは?など…。技術を否定しすぎることなく、とはいえ倫理観を失わずに、向き合い続けないといけないテーマだと、改めて認識しています。

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