移動可能な陶芸窯での焼き直し体験から考える、人間とAIの境界
- 秋山 智美
- 2025年4月26日
- 読了時間: 7分
更新日:2025年4月30日
以前のブログ「いつか・どこか・だれか いま・ここ・わたしたち」でも少しご紹介をさせていただいた、移動可能な陶芸窯(製作:壺文製陶有限会社 奥田章さん)での焼き直し体験。私が初めて体験をしたこの時は、焼き上がりの表情を左右する“釉薬”と、野菜の味を左右するミネラルの繋がりのようなものを感じたのですが、その後何度か回を重ねながら、分かりやすく定義しきれないこの体験も持つ意味を考え続けています。 そんな中、先日のらくら農場の萩原さんご夫妻に、この移動可能な陶芸窯での焼き直しを体験いただきました。今回は、これまで回を重ねてきた以下の対談を経ての解釈に加え、この焼き直し体験を通じて感じた「人間とAIの境界」についてお伝えさせてください。
全ての分野にできるAI時代の準備を、農業から考えてみる(ないとう農園 内藤さん×クレイジータンク 竹鼻さん)
11月の学び合う会から3ヶ月、これまでとこれからの“のらくら農場”のチャレンジ(のらくら農場 萩原さん×クレイジータンク 竹鼻さん)
単一品目大規模栽培の中から固有性を探す ーAI時代に必要な“あなただから”の価値ー(ベジアーツ 山本さん×クレイジータンク 竹鼻さん)

移動可能な陶芸窯とは
「大量生産の陶磁器も、唯一無二の一品へと生まれ変わらせることができる移動型窯」としてLexus Design Award 2017 FINALIST(TAKEHANAKE-Bungorogama│竹鼻 良文さん, 奥田 文悟さん, 奥田 章さん)となった作品です。
陶磁器は日本国内だけでも年間58,344,424 kgが制作され、世界ではさらにそれ以上がつくられている。大量生産された陶磁器のほとんどが使われることなく廃棄される。我々の窯を使用すれば、廃棄又は未使用の陶磁器を新たに「唯一無二」の一品に再生することができる。この窯は持ち運び可能であり、熟練陶芸家の指導があれば誰でも扱うことができ、炭や木を燃料に2~3時間使用することができる。1300℃以上の熱の中で炭と木が溶解し、陶磁器に定着することで、自然の力による新たなデザインが生まれる。完成した陶磁器には製作者独自の新たな価値が加わるのである。これらの陶磁器は大量生産されたものではあるが、再び火を通すことによって生まれ変わることができる。大量生産品と唯一無二の一品は相反する概念であるが、この窯はそのギャップの架け橋となる。( LEXUS DESIGN AWARD 2017 HPより抜粋)
焼き上がりは、焼き直しの際の温度や湿度、時間はもちろん、どんな炭を使うのか、何と一緒に焼くのか、元の釉薬や柄はどのようなものかなど、様々な要素が複雑に絡み合い風合いが変わってきます。そのため、どのような作品にしたいかという意志を込めることはできても、実際にどのようになるのかは陶芸のプロでも予測ができないと言われているとのこと。2006年にAIの研究を開始し、人とテクノロジーの境界線を生み出す、をテーマに活動されてこられたクレイジータンク 竹鼻さんが、まさに「人間とAIの境界」として企画された焼き直し体験を、壺文製陶 奥田さんが製作された窯を使用して、行いました。
焼き直しの様子
まずは今回行った、移動可能な陶芸窯での焼き直しの様子をお伝えさせてください。
今回焼き直しをしたのは、100円均一で購入をした、こちらのお猪口。温度や湿度、時間はもちろん、どんな燃料を使うのか、何と一緒に焼くのか、元の釉薬や柄はどのようなものかなど、様々な要素が複雑に絡み合い、焼き直し後の風合いが変わってくるため、実際の焼き上がりがどうなるのかは、陶芸のプロでも予測ができないと言われているそうです。
まずは、窯の中に陶器をセッティングし、着火します。
火が着いたら、勢いが衰えないよう燃料を入れ続けます。焚火のようにのんびり火を楽しみながら、とは真逆で、窯の温度がしっかり高い状態であり続けるように、常にタミングを注視しながら、炎や火の粉を目の前に緊張を覚えながら、手早く行います。
燃料を入れ続けること数時間。焼き上がりを確認して、取り出します。高温だった窯から出すと、表面のガラス質の釉薬が急速に冷えて縮み、中の土との伸縮の差により貫入と呼ばれるヒビが入ってきます。耳を澄ますと、心地よい“チリンチリン”というヒビが入る音が聞こえ、数時間続いた緊張からの解放と相まって疲れが癒されていきます。
焼き上がりがこちら。冷えてくると、自然の釉薬が付着して出来上がった、新たな表情が浮かび上がります。

人間とAIの境界
何かをする、という観点において、AIはどこまでできるのか?はあまり考えても意味がなく、あらゆることがいつかできるようになる、と考えた方が良いと思っています。その上で、これまでの対談、今回の体験を通じて感じた、人間とAIの境界をお伝えさせて下さい。
他にも様々な観点があると思いますが、あくまでこれらの経験を踏まえての、私自身の気づきと捉えていただければ幸いです。
わざわざAIが入ってこない(きにくい)
今回行った焼き直しの焼き上がりは、複雑な要素が絡み合っているため、実際の焼き上がりがどうなるのかは、陶芸のプロでも予測ができないと言われているという旨をお伝えしておりました。ただ今後も、思い描く完成形にする技術自体ができないのではなく、技術的には可能なものの、わざわざそれをするための技術開発はされない(されにくい)ということではないかと思っています。
今回焼き直しをしている最中に、たまたま近くを通りかかった方に何をしているのか?と声を掛けていただきました。簡単にご説明したところ、真っ直ぐに「とっても非効率ね」とのこと。既に使える小さなお猪口2つを、沢山の炭を使い、数時間という時間をかけて、どんな焼き上がりになるか分からない中で、焼き直している訳なので、本当にその通りです。そしてまさにこれが、わざわざAIが入ってこない(きにくい)ということなのではないかと感じました。
主体を持った経験・感情
農業と焼き直し、全く別のものではありますが、そこに共通点を見出すことができれば、農業を知り感じていただく新たな入口になり得るのではないか?そんな背景で今回、萩原さんご夫妻に体験をしていただきました。そして終了後、奥さまからこんな感想をいただきました。
農業と近い部分といえば、命の危険を感じながら作業をすることが似てるのかなあと思いました。管理機や草刈り機、チェーンソーや薪割りなども常に命の危険を感じます。 のんびりやるのではなく、手早く温度と風を調節するのは、マルチをはるタイミングや育苗ハウスの温度管理、堆肥作りや麹造りなどと通じるのかもしれません。 最終的にできる作品(畑では作物)に注視するより、その前の段階の炭や温度(畑では土壌)に集中していった結果が、すばらしい作品になって出来上がる、という感じでしょうか。 ドキドキ体験から、最後にチリンチリンという音で癒されました。
中でも「最終的な作品そのものに注視するより、その前の段階に集中していった結果が、すばらしい作品になって出来上がる」という言葉が印象的でした。最終的なアウトプット物は、今後あらゆる分野でAIなどのテクノロジーで作り上げることができるかもしれません。しかし、その過程で積み重ねる経験や感情は、少なくとも脳にチップなどで直接仮想の経験や感情を転送するなどしない限りは、作り上げることができないのではないかと考えています。
境界になり得る複数の要素の包含
前述の2つは、それぞれどちらかだけでは境界としては成立しにくく、いくつかの要素が複合的に絡み合うことで、人間とAIとの境界となり得るのではないかと考えています。
また、ここでは挙げていませんが、これまでの対談の中でクレイジータンク 竹鼻さんが常に仰っていたのは、AIに過去は作れない、ということです。これもとても大きな、境界になる要素だと認識しています。
この移動可能な陶芸窯での焼き直しは、安全に体験いただける準備を整えた上で、今後皆さんにご案内させていただく予定です。ぜひ皆さんも、仕事や暮らしの中で、“人間とAIの境界”に思考を巡らせて見ていただければ幸いです。














