農林水産予算から考えるこれからの農業と食卓
- 秋山 智美
- 2025年9月28日
- 読了時間: 7分
更新日:2025年9月28日
前回のブログでは農業を取り巻く環境を、のらくら農場 萩原さんの危機感を起点にご紹介させていただきました。今回は、8月末に財務省へ提出された農林水産予算概算要求の概要と、そこから考えるこれからの農業や食卓について、私自身の解釈をお伝えさせていただけたらと思います。
※ぜひ、前回のブログ「農林水産予算から考えるこれからの農業と食卓 ~日本の農業を取り巻く環境~」と併せてご覧いただけたら幸いです。

農林水産予算概算要求の概要
各省庁から提出された一般会計の概算要求総額の合計額は122兆4,454億円(対令和7年度当初予算額比106%)、そのうち農林水産関連予算は2兆6,588億円(対令和7年度当初予算額比117%/全体の2.17%)。加えて、現段階では具体的な金額は明示せず項目のみを提示し今後の予算編成過程の中で具体的な金額を詰めていくという“事項要求”として、「農業構造転換集中対策」などの予算が提示されています。
※令和8度農林水産関係予算概算要求の概要は以下
上記の農林水産省作成の資料とは違う整理にはなるのですが、もう少しシンプルにした形で、農業関連の内容に絞って、私自身の解釈をお伝えさせてください。
生産効率の向上
農業分野における予算の一番大きな変化は、この生産性向上に直結する分野への拡充だと認識しています。
国土が狭く急峻な地形であること、戦後の農地改革の影響による狭い区画での農地であることに加えて、世代を重ねる中で所有者がその地域にいないことも多いこと、多湿な気候に加え、直近の気候変化による栽培適応の必要性が出てきていることなど、そもそも生産性が低い条件が揃っていることことに加え、更なる低下の可能性が高まっていると認識しています。更に、農業従事者の高齢化に伴う急激な減少が進む中で、これまで以上の予算をかけて進めていくという意志を持った予算編成なのではないかと感じています。
※令和8年度農林水産関係予算概算要求の重点事項より抜粋(対令和7年度当初予算額比/令和8年度概算要求額構成比)
農業農村整備事業<公共>:3,941億円(118.3%/14.8%)
農地の集約化の推進:161億円(374.4%/0.6%)
大区画化等加速化支援事業:31億円(ー/0.1%)
共同利用施設の集約化:221億円(110.5%/0.8%)
スマート農業技術活用促進集中支援 プログラム:306億円(168.1%/1.2%)
生産性の抜本的な向上を加速化する革新的新品種開発:10億円(400%/0.0%)
「知」の集積と活用の場によるイノベーション創出推進事業:38億円(135.7%/0.1%)
また、冒頭でも触れた“事項要求”として、上記に加えて以下の項目が挙げられています。
農業農村整備(農地の大区画化等)
共同利用施設の再編集約・合理化等
スマート農業技術・新品種の開発、農業機械の導入
流通の可視化
お米の流通を発端として、改めて生活者としても認識することになった生産~消費を繋ぐ流通の不透明さ。自由経済の中ではありますが、特にお米などのエネルギー源となる作物や資材などにおいては、食料安全保障という観点で政府としてタイムリーに把握できる状態の構築が喫緊の課題となっているのではないかと思います。予算規模としては大きくありませんが、重要な項目だと認識しています。
※令和8年度農林水産関係予算概算要求の重点事項より抜粋(対令和7年度当初予算額比/令和8年度概算要求額構成比)
持続可能な食品等流通総合対策事業:32億円(3,200.0%/0.1%)
食品アクセス総合対策事業:6億円(600.0%/0.0%)
デジタル技術を活用した水稲収穫量調査の精度向上に向けた研究・実証:8億円(ー/0.0%)
国産化・輸出の拡大
ロシアによるウクライナ侵攻を発端とした世界情勢の変化を受け、2022年以降、不測時の食料安全保障についての危機感の高まりを鑑みて、様々な法整備が行われてきました。そのど真ん中に当たるのが国産化であり、不測時のバッファとしての輸出拡大だと捉えています(もちろん、それに付随して前述の項目が必要です)。そのため、今回の概算要求において他の項目と比較してそこまで大きく伸張している項目ではないのですが、令和5年度の予算から増加傾向が見られます。
また、少なくとも1つ目に挙げた大規模化などに伴う生産効率の向上が追い付いてくるまでは、価格上昇が伴うという認識のもと、合理的な価格形成に向けた予算も増加されています。加えて、食料そのものとは比べ物にならないほど輸入依存度が高い、肥料や飼料の国産化も非常に重要なテーマです。
※令和8年度農林水産関係予算概算要求の重点事項より抜粋(対令和7年度当初予算額比/令和8年度概算要求額構成比)
米穀等安定生産・需要開拓総合対策事業:40億円(ー/0.2%)
コメ新市場開拓等促進事業:200億円(181.8%/0.8%)
不測時に備えた食料供給体制の構築:4億円(ー/0.0%)
畑作物産地生産体制確立・強化事業:49億円(ー/0.2%)
輸出産地・事業者の育成・展開:81億円(117.4%/0.3%)
海外需要の拡大に向けた取組の強化:33億円(126.9%/0.1%)
加工・業務用野菜の国産シェア奪還:11億円(275.0%/0.0%)
収入保険制度の実施:466億円(116.8%/1.8%)
持続的生産強化対策事業:160億円(112.7%/0.6%)
みどりの食料システム戦略推進総合対策:39億円(650.0%/0.1%)
環境保全型農業直接支払交付金:29億円(103.6%/0.1%)
※有機農業の推進も含む「みどりの食料システム戦略」は環境負荷軽減の目的を大きく打ち出していますが、食料安全保障の観点での“肥料の国産化”の要素も大きいのではないかと認識しています。
農林水産予算から考えるこれからの食卓
断片的ではあることに加え、変化の内容(割と近い将来の変化、長い時間をかけてじわじわとという変化、構造が変わるタイミングにおけるある一定期間での変化など)についても様々なものが混在していますが、現時点で想像しているこれからの変化について、お伝えさせてください。
価格の上昇
大規模集約化、高効率生産が可能な品種改良、スマート農業の普及など、生産性向上に向けた政策が進められていますが、それが実現し価格に反映されるようになるには、まだしばらく時間がかかるのではないかと考えています。また流通の可視化に伴う合理化も、価格低下に繋がりますが、こちらもすぐには難しい(お米は一気に進むのかもしれません)のではないかと思います。
一方で、まだ価格に反映されきっていない生産コストの上昇分、気候の変化に伴う生産の不安定化は当面続くことを想定すると、生産性が追い付いてくるまでの間はしばらく価格上昇が続くのではないかと想定しています。
※まだまだ一般的には反映しきれていないコスト上昇分の価格反映ですが、保けん野菜ではそれも踏まえた価格設定をさせていただき、農家さんへお支払いしています。そのため、少なくとも当面の価格改定は予定しておりません。保けん野菜の加入者さまには先んじてご理解をいただき、ありがとうございます。
工場生産野菜の増加
既にもやし、きのこ、ベビーリーフなど、品目によっては多くが食品工場で生産をされていますが、レタスにおいても採算の合う形で大規模に展開し始める企業が出てきています。長野県で大規模にレタス栽培をされてきた農家さんも、徐々にレタスの生産を減らしていくという話をされており、割と近い将来、レタスも工場生産がメインとなってくるかもしれません。
とは言え、畑や田んぼも人工物であり、土地に対して人口が多い状態を前提とすると、コンパクトな面積で効率的に生産をできる食品工場での生産は、技術開発と共にコスト面でも環境負荷面でも合理的な選択となる可能性もあります。
ただ、土から全く離れてしまうというのは、生物として不安を感じる部分でもあります。もしかすると、産業としての農業に携わる事業者は土から徐々に離れ、土での栽培、多様な野菜の栽培は、また違った役割としての農家、もしくは、かてい農園のような形で生活の中で残していくものになっていくのではないかと考えています。
いざという時の食の備えの意識
恐怖に駆られる必要は無いと思う一方で、国として不測時の備えを強化しているということを考えると、個人や共同体としても少し意識をしておいた方が良いのかもしれないと考えています。いざという時の一定期間分の食の確保、何かあった時に食品を入手できる先、何かあっても自分で作ることができる状態、など。楽しみながら自然とこんな状態を作っていけると良いなと考えており、これまでも意識してきたことではありますが、改めて保けん野菜でも考えていきたいと思っています。
少し堅苦しい内容となってしまいましたが、何となく頭の片隅に入れておいていただける、そんな情報になっていたら幸いです。




