農林水産予算から考えるこれからの農業と食卓 ~日本の農業を取り巻く環境~
- 秋山 智美
- 2025年9月21日
- 読了時間: 6分
更新日:2025年9月27日
国の来年度予算の編成に向けて、8月末に各省庁から財務省へ概算要求が提出されました。全体では、物価上昇も踏まえ過去最高額の122兆円超(令和7年度概算要求比106%)となった概算要求ですが、その中から農林水産予算概算要求の概要と、そこから考えるこれからの農業や食卓について、私自身の解釈をお伝えさせていただけたらと思います。今回はその前提となる農業を取り巻く環境を、のらくら農場 萩原さんの危機感を起点にご紹介させてください。

のらくら農場 萩原さんから伺っていた危機感
昨年11月、萩原さんのこんな思いから、全国から40名を超える農家さんが長野県佐久穂町に集まり、真剣にこれから何をしていくか?を考える場を開催しました。
ここ1‐2年、農業を続けるのが難しくなり辞める、難しくなる前に辞める、そんな仲間の選択を見聞きすることが増えてきた。しかも、あんなに美味しい野菜を作っている彼が!?しっかりお客さんがついていたあの人が!?と、驚きを隠せない面々。 資材や配送料の高騰、気温上昇や豪雨・旱魃の増加などの気候の変化、離農する方が増加する中での地域の農業インフラの維持、一方でなかなか難しい価格転嫁など…、目の前に様々な課題が押し寄せてくる中、それでも打つ手を持ち続け、打ち手を打ち続けている状態を知恵を出し合って作っていきたい。そのために自分に何かできることがあるのではないか、やらねばならないのではないか。
データを見ていれば、いつか来る、じわじわ来ている、というのは分かってはいたものの、「ついに目の前まで来た」というのを感じたとのことでした。ここで挙がっている、農業を取り巻く環境について、ニュースなどで目にされたことがあるものも多いのではないかと思いますが、改めて少しご説明させてください。
資材価格・農産物価格の推移
輸入への依存度が高く、為替や原油価格に大きく左右される農業生産資材の価格。中でも肥料はロシアのウクライナ侵攻を機に大幅に高騰し、現在は一時期と比較すると落ち着いたものの依然として高い状況が続いています。政府として輸入をする国の多元化や有機肥料活用の推進を進めていますが、少なくとも当面は高い状況が続くのではないかと考えています。
また昨年までは資材価格の上昇に追い付いていなかった農産物価格も、昨年秋頃から上昇しているようにも見えます。ただこの上昇は、昨今のお米の価格に加え、気候の変化に伴う主に秋~冬にかけての葉物野菜の不足という、需給バランスの崩れによるものが大きいのではないかと捉えています。帝国データバンク「価格転嫁に関する実態調査(2025年7月)」によると、価格転嫁ができていると回答した農林水産事業者は26.7%。特に野菜は受給バランスが落ち着いたタイミングでの価格も、これから徐々に上がっていくのではないかと推察しています。



また、今年10月から順次行われている最低賃金の引き上げに伴い、野菜の値段を上げるという判断をされた農家さんの声も伺っています。

気温上昇や豪雨・旱魃などの気候の変化
3年連続で史上最も暑い夏を更新したり、豪雨被害のニュースを目にすることが多くなったりと、気温上昇と豪雨は気候の変化の中でも日常生活の中で多くの方が実感しているのではないかと思います。
加えて、昨年の秋~冬にかけての葉物野菜の不足・高騰は記憶に新しいのではないかと思いますが、この原因となったのが主に高温と旱魃による虫の被害です。虫の数、活動期間、活動タイミングという観点で被害が広がり、収穫量が大幅に減ってしまいました。
世代交代の回数増加による個体の増加 虫にはそれぞれ“発育零点”と呼ばれる、これよりも低い気温では発育ができないという温度があります。この温度と気温の差が大きいほど成長スピードが速くなるため、気温が高いと世代交代の回数が増え、個体数が指数関数的に増加することになります。
活動しやすい温度帯の長期化 虫により活動できる温度帯は異なりますが、野菜を栽培する中で“害虫”とされる虫は、20~30℃の環境下で活動が活発となるものが多いと言われています。これまでであれば徐々に涼しくなり害虫の活動も停滞する時期になっても、残暑が続くことで害虫の活発な活動が継続しています。
夜行性の虫も活動が継続
虫の中には夜行性のものと昼行性のものがいるのですが、夜間の気温が下がるようになると夜行性の害虫の活動は鈍ってきます。しかし夜間の気温が下がらないと、昼には昼行性の害虫が、夜には夜行性の害虫が活動し、被害が大きくなってしまいます。
今後はこの気候が通常となっていくことを前提として栽培の見直しが行われていくことが見込まれますが、アジャストするまでに少し期間が必要となる可能性や、それに耐えうる経営体力がある農家でないと継続が難しくなっていくことが見込まれます。
地域の農業インフラの老朽化
農業用水路などの水利施設、集荷・選果場などの流通関連施設など、各地には地域の農業インフラが多くありますが、老朽化が進んでいます。例えば農業用水路は日本全国で40万㎞(≒地球10周分)もの長さが張り巡らされているのですが、その中でも基幹的な水路5万㎞に絞っても約5割が耐用年数を超過しており、関連する事故も増加しています。

今後の人口構造や生産性、投資可能な予算を鑑みると、ダイナミックな取捨選択をしながら整備をしていく必要がある中、どこでどんな農業を担っていくのかというグランドデザインを踏まえて、対応していく必要があります。整備をするに値する地域と位置付けられるエリアにしていく以外に、インフラが整備されることは望めない状況となっています。
加えて水路に溜まってしまう泥の処理、水路に流れる水量の調整など日常の管理は地域で担っており、人口減少、高齢化に伴い管理の継続が難しくなるエリアもこれから一気に増えていくことが見込まれます。
小さく点在する農地を前提とした上がりにくい生産性
日本では戦後の農地改革により地主制度が解体され、それまでの小作農が小さな区画で自作農化し、高度経済成長期を経て兼業農家となり世代を重ねてきました。そのため現在、耕作面積を広げようとすると、大きな区画、隣接した畑での集約が難しく、小さな面積の畑が点在する形で広げていかざるを得ない状況です。例えば、のらくら農場さんでは、70枚、合計9haほどの畑が、一番遠い場所では4kmほど離れた場所まで点在しています。

地形や歴史が異なる中で、単純に大規模化を目指すべきというものでは無いと思いますが、例えば日本はアメリカと比較すると平均経営面積は1/80(カリフォルニアの場合)、単位重量当たりのコストは4.2倍。日本の農業において、生産性の向上を目的とした規模拡大は必然的な方向性だと認識しています。


このような現在の日本の農業の現状を踏まえ、次回のブログでは農林水産予算概算要求の概要と、そこから考えるこれからの農業や食卓について、私自身の解釈をお伝えさせていただけたらと思います。
