2025年農業技術10大ニュースから考えるこれからの食の変化
- 秋山 智美
- 1月4日
- 読了時間: 7分
更新日:6月15日
農林水産省では毎年、その年に民間企業、大学、公立試験研究機関及び国立研究開発法人が公表した農林水産分野の研究成果のうち、新聞記事として取り上げられたものを対象に、その内容の優秀さと社会的関心の高さを基準として、注目すべき10課題を「農業技術10大ニュース」として選定しています。
今回は、昨年2025年12月19日に発表された2025年農業技術10大ニュース改めて感じた、これからの農業・食の変化の兆しをご紹介させてせてください。
2025年農業技術10大ニュース
少しマニアックなものもありますが、まずは発表された10大ニュースをご紹介させていただきます。
地下まで効く!ナガエツルノゲイトウ防除技術 水田など水辺に生息する特定外来生物に指定されている、拡散しやすく取り除くのが難しい雑草「ナガエツルノゲイトウ」。拡散を防ぐため、草刈り機で駆ることや抜いたものを放置することが禁止されており、水田に広がると収穫量が減るだけでなく、対処にとても手間がかかる雑草です。蔓延してしまった水田で駆除をするための農薬使用の技術を体系化したことで、除草の手間の削減、拡散の阻止が期待されています。
農業を守る光の力:ドローンで鳥獣害対策に革新 自動航行ドローンから赤・緑のレーザーを照射し、烏、猪、鹿などの鳥獣の視覚に強い違和感を与える技術。複雑な照射パターンで慣れを防止し、効果を継続させるとのこと。鳥獣害対策、ウィルス等の伝播防止、それにかかる負担の軽減が期待されています。
日本初の有人監視型自動運転草刈機 これまでの自動運転草刈機は、作業場所をフェンスなどで囲う必要があり使用できる条件が限られていた中、目視可能な場所からの監視という条件付きで、オープンなスペースで使用可能な自動運転草刈機が日本で初めて発売されました。
温暖化時代の果樹適地予測マップ 果樹は全般的に栽培できる気候の幅が狭いとされており、温暖化の影響を大きく受けています。例えばミカンは今後の温室効果ガスの排出量次第では、現在の適地が全て栽培に不敵となる予測も。温室効果ガスの排出量シナリオ別の将来の適地予測を、1kmメッシュという解像度でマップ化したことで、今後の長期的な適切な栽培計画の策定に寄与することが期待されています。
赤色レーザーダイオードが植物の成長を促進 植物工場で栽培に使用する人工光のほとんどがLED(発光ダイオード)と言われていますが、より波長の幅が狭くピンポイントな波長の光を照射することができるLD(レーザーダイオード)を使うことで、成長効率を高められるということを世界で初めて確認しました。植物工場や宇宙空間など、閉鎖空間での効率的な栽培の実現が期待されています。
赤い果実は太陽を浴びた証 ぶどう新品種「サニーハート」登場 シャインマスカットを親として作られた、赤色で皮ごと食べられ、種なしでの栽培もできる、粒がハート型の新たな品種です。海外への流出により大きな損害が発生していると言われるシャインマスカットのようにならないよう、国外での品種登録などもスピーディーに進められており、新たな人気品種となることへの期待が寄せられています。
ももの樹の動画を用いてAIが水分状態を診断 果実の大きさや糖度を大きく左右する水管理。天候や生育状況を踏まえて、経験に基づいて水やりが行われてきた中、高価な機械や採取などは不要でももの樹を撮影するだけで水やりのタイミングが分かる技術です。将来的な栽培の自動化の一つのパーツとなる技術として、期待されています。
海水から肥料原料を確保!
栽培に必要な肥料の中でも、肥料の三要素と呼ばれているのが「窒素(N)」「リン(P)」「カリウム(K)」。これらの肥料はほぼ全量を輸入に頼っている状況です。海水から高い濃度のカリウムを回収する技術を更に発展させることで、国内でのカリウム肥料の生産に繋げ、輸入依存から脱却することが期待されています。
「コメクト」始動!DXでライスセンターをスマート化 お米は収穫後、乾燥、籾摺り(籾殻を取り除き玄米にする)、選別(不良なお米を取り除く)などを経て出荷用の玄米となり、精米(糠を取り除き白米や分つき米にする)を経て消費者の元へ渡ります。この収穫後の処理を担う施設をライスセンターといい、このプロセスのDXを担うプロダクトが、まずは生産者向けからリリースされました。作業負担の軽減、栽培の改善に加え、生産管理システムとの連携により生産~流通のトレーサビリティ確保にも期待されています。
ダイズ・根粒菌共生系で温室効果ガスN₂Oを削減 CO₂の約300倍の温室効果があると言われているN₂O(一酸化二窒素/亜酸化窒素)は、土壌中の窒素が微生物により分解される過程でも発生します。マメ科の植物の根に共生をする根粒菌のうち、N₂O削減能力の高い共生系を開発することで、N₂O排出量を大幅に削減することに成功。環境負荷の少ない大豆生産による地球温暖化の抑制が期待されています。
植物工場を含むスマート農業の加速
大きな先行投資が必要なことに加え、エネルギーコストの高騰、上げにくい販売価格など、植物工場の4割ほどが赤字経営と言われています。過去にも、大戸屋ホールディングス(2009~2010年代半ば)、パナソニック(2013~2023年)、オリックス(2013~2023年、東芝(2014~2016年)など、大手企業が参入するものの撤退をしてきた経緯があります。また2024年には、当時国内最大級だったレタス工場が経営破綻をしています。
一方でLEDなどのコスト低下、AIの進化に伴う様々な効率化、今回10大ニュースにあった赤色レーザーダイオードでは成長促進に伴う野菜工場の回転率上昇に繋がり得るなど、様々な技術の進化やコモディティ化により、これまでネックとなっていた生産コストの低下が進んできています。
きのこ、もやしなど、既に工場生産が主流となったいるものに加え、レタスについても国内の20%ほどが植物工場で生産されたものとなっていますが、これから更にぐっと増えていくのではないかと考えています。長野県で大規模に露地(屋外の畑)でのレタス栽培を行っている農家さんからも「今後、植物工場で生産されるレタスの価格がぐっと下がってくることが見えている。レタスで戦うのは難しいため生産量を減らし、生産する野菜の転換を進めている。」という話も伺っています。
トレーサビリティの推進と、それに伴う需給のコントロール
現在、日本では食品に関するトレーサビリティに関する法律として、以下の3つが存在しています。中でも牛、米については、記録が義務付けられているものの、実態としては徹底されていなかったり、管理をしている場合もアナログなケースが多く実際には把握するのが難しいというのが実態です。昨今のお米の状況の実態がなかなか分からない、という報道などからも、認識されている方も多いのではないかと思います。
牛トレサ法(牛の個体識別のための情報の管理及び伝達に関する特別措置法)
2001年にBSE(牛海綿状脳症)問題が発生したこときかっけに制定。
牛一頭ごとの個体識別番号での管理、牛肉販売の際に個体識別番号の表
示・記録を義務付け。
米トレサ法(米穀等の取引等に係る情報の記録及び産地情報の伝達に関する法律)
2008年にカビが生えて食用に適さなくなった米を不正転売した事件をきっかけに制定。
入出荷記録の作成・保存、産地情報の伝達を義務付け。
食品衛生法
戦後、飲食を通じた健康被害を防ぎ、国民の健康を守ることを目的に制定。
仕入元及び出荷・販売先等に係る記録の作成・保存を、努力義務として設定。
中でも既に義務化がされており、主食でもある米については、生産者、流通業者が各自で記録、管理をしている状況から、DXの推進による可視化が促進されていくと考えています。また生産者の減少、価格低下のためにも生産性の向上が求められる米は、これから一気に大規模化が進むことが想定できることからも、トレーサビリティの推進、需給のコントロールが強まっていくのではないかと想像しています。
いずれも、少し長い目線で見ると安価な農作物を安定的に供給できる状況に向けた必要な動きである一方で、もう少し人間的な感覚を伴う、時に面倒くささも包含した「食」とは、少し離れた形ではないかと考えています。安定、安価な食の供給が進んで行く中で、土で作った、人が作った、栄養摂取ということだけを考えると不要かもしれない拘りの詰まった農作物は、誰かが意志を持たないと無くなっていってしまうかもしれないということを、改めてリアルに感じています。そんな中でも保けん野菜では、食べ続けたいと思う野菜を、作って下さっている生産者さんから、意志を持って購入したり、一緒に未来を考え活動していくことで、より良い形で残していけたらと思っています。
