かてい農園における“循環” ~種~
- 秋山 智美
- 2024年5月11日
- 読了時間: 6分
更新日:2024年6月4日
前回のブログにて、かてい農園の広がりについて少し触れさせていただきました。かてい農園では、まずは楽しむということを大切にしていますが、今後少しづつ、できるだけ生産~消費~分解が分断されずに繋がり、そしてまた生産~商品~分解と循環していく状態を作っていきたいと考えています。 それに当たって大切になるのが「種」と「土」。シーズンごとに種を買うのではなく、育てた野菜から種を採りまた翌年に蒔いたり、毎回土や肥料を買うのではなく、普段の生活から出る生ごみから堆肥を作ったり。産業としての農業生産の中では、経済合理性の観点からなかなか実現が難しいこの循環を、かてい農園から皆さんと一緒に実現していきたいと考えています。今回は、まずは「種」の循環について、お伝えさせてください。
普段食べている野菜の種
野菜の種の“循環”を考えるにあたり、普段私たちが食べている野菜の種を「品種」「自給」「権利」の観点で少し整理をしてみたいと思います。
品種
長い歴史の中で、野生の植物から人間にとって都合のよい性質の個体の選抜を繰り返していくことで作られた野菜ですが、現在、普段食べている野菜の種は、親から子へ、子から孫へと、安定して形質が引き継がれるかどうか?という観点で、以下の2種類に分けることができます。
固定種 代を重ねても形質が大きく変化しない種のことで、交配や各地の環境にあった種の選抜を繰り返すことで、形質が固定されていきます。現在、伝統野菜と呼ばれるような野菜の多くは、江戸時代の参勤交代による地域を越えた種の交易を経て、その土地に合ったものが生まれ、形質が固定していったと言われています。 “代を重ねても形質が大きく変化しない”と言っても、自然界での交配を行っているため少しづつ形や大きさ、味、生育時期などの形質がばらつきます。しかしこのばらつきも大切で、近親相姦と同じメカニズムで遺伝子の多様性が損なわれて弱くなっていく、ということを防いでいます。 ※文献などで見つけることはできなかったのですが、遺伝子が濃くなり続けることを防ぐため、定期的に同じ品種の種を地域の他の方と交換し合うという慣習があったという話も耳にしました。
F1種(交雑第一種) 異なる形質を持った固定種の親同士を交配して作った、雑種一代目の種です。遺伝の法則や雑種一代目は親世代よりも生命力が高いという性質を使って、効率的な大量生産を目的としたときに弱点となる形質の“ばらつき”やを無くた、より強い種を作ることができます。 F1種は効率良く野菜を生産するにはとても適した種である一方で、この性質が出現するのは雑種の第一代目に限られるため、種を採って栽培するのには適していません。そのため野菜の生産においては、種は購入して育てるというのが一般的になっています。
現在日本で流通している野菜の99.5%はF1種と言われており、次の世代以降に繋いでいくことが難しいものとなっています。
自給
野菜の種子において、日本メーカーの世界シェアは比較的高く約17%を占めており、日本で流通している野菜の種のほとんどが日本メーカーのものです。しかし、種の生産自体は海外で行っていることが多く、日本で流通している野菜の種のうち、日本で生産されているのは約10%に過ぎません。野菜そのものの自給率(重量ベース)は約80%ですが、ここには種の生産は反映されていません。 海外で種を生産する理由としては以下のようなものが挙げられ、安価で品質の高い種を大量に生産するためには、合理的な選択かと思っています。一方で、何等かの理由で輸入が出来なくなると、90%もの種が手に入らなくなる状況ということも、頭に入れておかなければいけないかもしれません。
気候 一般的に原産地に似た環境で育てた方が、良質な種ができること(日本原産の野菜はほとんど無い)。また、 温暖で湿度の高い日本の環境は、受粉の効率が悪く、病気になるリスクも高いこと。
土地 他の植物との交配をしないよう、他の畑から離れた場所で栽培できる広大な土地が必要なこと。
コスト 人件費の相対的に日本よりも低いこと。
権利(種苗法における育成者権)
もしかすると、海外への日本の果物の流出というニュースの中で耳にしたことがある方もいらっしゃるかもしれません。これは、要件を満たす新品種を農林水産省に登録することで、研究開発の期間や労力などをかけて新たな品種を開発した人や組織に「育成者権」を付与し、知的財産権として保護する制度です。保護される期間は野菜においては25年間で、その間、この品種の販売目的での栽培や加工などは、育成者権を持つ方の許諾を得なければ行うことができません。出願時に海外持ち出しを制限することで海外への流出を防いだり、開発した品種のブランド化をしやすくなるなど、重要な権利です。
ご自宅での消費用の栽培に当たってはこの権利は行使されないのですが、増やした種や収穫した野菜を誰かに譲渡することは禁止されています。
ゲノム編集技術とAIの進化
品種改良をして新たな種を作る手段は、自然界からの有用な種の選抜、有用な種同士の交配、放射線や化学物質を利用した人為的な突然変異の誘発、遺伝子組み換え技術の利用、と新たな方法が生み出されてきました。そして現在、国としても力を入れている方法が「ゲノム編集」技術です。遺伝子組み換えとの違いが少し分かりにくいかもしれないので、簡単に説明させてください。
遺伝子組み換え(GMO) ある生物に別の生物の遺伝子を人為的に組み込むことで、目的の性質を持った種を生み出す方法です。交配が不可能な生物の遺伝子を組み込むことができるのが、大きな特徴です。利用したい農薬への耐性を持った微生物の遺伝子をトウモロコシに組み込むことで、農薬に強いトウモロコシを作る(雑草は生きられないが、トウモロコシは生きられる)ということが、可能になります。
ゲノム編集 その生物の遺伝子の特定箇所を酵素などを使って切断することで、狙った性質を抑え品種改良を行う方法ですが、切った最近では遺伝子を切断せずに編集することもできるようになってきています。野菜では、GABAの生成を抑える部分を切断することで、GABAが豊富なトマトが作られ、販売されています。
イネを皮切りに全ゲノム解析が進み、ゲノム編集技術が確立されてきたという土壌がある中で、更にAIの進化が加わることで、加速度的に新たな品種開発が進んでいくことが想定されます。何度も交配、実験を重ねて十年単位の時間をかけても有用な品種ができるかどうか…、という世界だったものが、1~2年で有用な品種を作り出せるようになり、個人が開発をするハードルも低くなっていくと思います。 この品種開発は野菜はもちろん、花や樹木などの他の植物、動物、昆虫、微生物など、様々なもので進んでいく中で、生態系にどのような影響を及ぼすかは分かりませんが、進んでいくということそのものは変わらないのではないかと思います。
種を循環することの価値
次の世代に種を繋いでいくという難易度が、品種、自給、権利などの観点で上がっていること、今後ゲノム編集による知財登録をされた品種が多くなってくるであろうことを、お伝えさせていただきました。そんな中でわざわざ循環をする価値、それは「生物としての感覚」と「不測の事態への備え」ではないかと思っています。まだあまり言語化ができていませんが、今後かてい農園を通じて、体感も含めて改めてお伝えしていけたらと考えています。








