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じゃがいもの毒と人類の歴史

  • 執筆者の写真: 秋山 智美
    秋山 智美
  • 2024年3月16日
  • 読了時間: 5分

更新日:2024年3月16日

先日、お届けしたじゃがいもを食べた方から、辛味や喉がイガイガする感じが残るというご連絡をいただきました。芽やその周辺、緑色に変色をした部分に毒があることは多く知られていると思いますが、食べられたじゃがいもの写真を見せていただいたところ、芽や変色は見られませんでした。今回のケースについて、どのようなことが考えられそうなのかに加え、じゃがいもの「毒」と人類とのこれまでの歴史をご紹介させてください。


じゃがいもの毒

既にご存じの方も多いかと思いますが、じゃがいもの芽やその根元周辺、緑色になった皮や芋には、『ソラニン』や『チャコニン』という毒が多く含まれています。ピリピリとした辛味やイガイガイするような苦みがあり、少量でも吐き気やおう吐、下痢、腹痛、頭痛、めまいなどの症状を引き起こすと言われています🩺

※じゃがいもを含むいくつかの野菜の毒について、以前のブログ「植物が持つ自然毒の力」にてご紹介させていただいています。ぜひ、併せてご覧いただければと思います。


今回、違和感のある味だったじゃがいも

冒頭でお伝えさせていただいた、辛味や喉がイガイガする感じが残るという違和感のあったじゃがいもですが、食べられた残りの半分があるとのことでしたので写真を送っていただきました。それがこちらなのですが、このじゃがいもを見てどこかを取り除かなければ、と思われる方はいらっしゃらないのではないかと思います🤔

また、一緒にお届けしていた他のじゃがいもの個体では違和感のある味は無く、同じタイミングでお届けした他の加入者さまからも異変は確認できませんでした。同じじゃがいもを農家さんから送っていただき、私自身も味の確認や保存の検証をしてみましたが、やはりこのような見た目で違和感の味を感じることはありませんでした。 農家さんとも原因を一緒に考えていただいたのですが、じゃがいもの原種では芽や変色した部分だけではなく芋全体に毒があったということから、恐らく当該の個体での突然変異ではないか、という推察に至りました。


アンデス地域でのじゃがいもの解毒

原種には芽や変色した部分だけではなく芋全体に毒があった中、じゃがいもの栽培が始まったと言われているアンデス地域では、水に溶けやすいという『ソラニン』や『チャコニン』の特性を活かして、加工によって毒を抜いて食べていたと言われています。 標高4,000mもの高地で夜間は冷え込むため、野天に広げておくことで夜間に凍結、昼間に解凍を繰りかえします。こうすることで芋の中の細胞壁が壊れ、指で軽く押しただけで中の水分が出てくるようになります。これを足で踏んだり、川の流れの中につるしたりして、水分と共に毒を押し出し、乾燥させることで保存食を作ります。食べる際は一昼夜水につけて戻し、フリーズドライに近い製法で作られたこの「チューニョ」は、現在もアンデス地域でよく食べられています。また日本にも、地域により“凍み芋”、“ちぢみ芋”、“しばれ芋”と呼ばれる、同様の手法で作った保存食があります。

足で踏んで毒を抜く「黒」と、川の流れなどを利用して毒を抜く「白」のチューニョ

このように加工によって解毒をして食べることに加え、毒の少ない品種を選抜して栽培をしていくということを繰り返していきました。


ヨーロッパで「悪魔の植物」と呼ばれたじゃがいも

コロンブスのアメリカ大陸到着以降、16世紀にじゃがいもがヨーロッパへ持ち込まれたと言われています。土地がやせていて寒冷なため、主食となり得る作物では麦類しか作ることができなかったヨーロッパにおいて、寒冷でやせた土地でも育つじゃがいもは重要な作物でした。そのため、各地で国を挙げて普及させる動きが起こりました。

しかし持ち込まれた当初は、以下のような背景があり食用としてはなかなか広がりませんでした。

  • 誤ってじゃがいもの芽や緑色の部分を食べてしまうこともあり、猛毒な植物というイメージが強まった。

  • 芋を食べる習慣が無かったため、ゴツゴツとした見た目から食べるとハンセン病になるというデマが広まった。

  • 聖書に書かれていない植物であり、種子ではなく芋で増える=性的に不純とされ、じゃがいもが裁判にかけられて有罪判決となってしまった。

また普及する過程でイギリスでは、まずは上流階級の間で広げることから始めようと、エリザベス一世がじゃがいもパーティーを主催。しかし、じゃがいもを知らないシェフ達が毒のある葉や茎を使って料理を作ったため、エリザベス一世がソラニン中毒になってしまったそうです。


放射線照射によるじゃがいもの発芽抑制

日本には1600年頃にオランダの商人から伝来し、江戸時代の複数の大飢饉を経て全国に広まっていったと言われているじゃがいもですが、本格的に食用としての栽培が始まったのは明治時代。北海道の開拓と共に広がっていきました。

貯蔵をすることで収穫ができない時期も含めて一年中食べることができますが、芽が出てしまうと食べられません。そのため、貯蔵をする際は5℃程度に保つ必要があるのですが、貯蔵するための費用がかかります。そこで、日本では1967年から食品への放射線照射に関する研究を開始。じゃがいもにおいて保存性が上がる効果と、安全性が確認できたということで、国と北海道の士幌町農協が共同で施設を作り、1974年からから発芽防止のためのじゃがいもへの放射線照射が開始されました。日本で食品への放射線照射が認められているのはじゃがいものみ、この士幌町農協の施設のみでしたが、2023年にこの施設は解体していることが分かりました。

放射線照射による発芽抑制が国内では一旦行われなくなり、今後、じゃがいもの毒を抑制する動きはゲノム編集などに託されていくのではないかと思っています。まだ商品として市場に出る状態にはなっていませんが、2021年からゲノム編集により天然毒を大幅に減らした品種の栽培試験が始まっています。

様々な形で毒を抑える試みをしてきている人類ですが、今回のケースのように見た目では判断できないものは、頻度は非常に少ないながら今後も発生し続けると思います。その場合は事前の知識があることに加え、五感がとても頼りになるかと思います。賞味期限の設定や品種改良など、事前に防いでいる仕組みなどに頼るだけでなく、体に入れるかどうかの判断を自らできる力の大切さを感じる機会となりました。

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