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ノウ地巡礼 開催レポート

  • 執筆者の写真: 秋山 智美
    秋山 智美
  • 2023年11月8日
  • 読了時間: 11分

更新日:2024年9月21日

先週末の2023年11月4日(土)、ないとう農園さん(埼玉県伊奈町)にて“ノウ地巡礼”を開催いたしました。柔らかい日差しと11月とは思えない暖かさという、夕方の畑でのイベントにはぴったりの(気候変動的には心配にはなりますが)天気に恵まれ、皆さんと一緒に時間を過ごすことができました🌱

当日は、ゴルゴさんご夫婦、カブさん、ケールさんを始め、9名の皆さんにご参加いただきました。また、ないとう農園さんからは、代表の内藤さんご家族(内藤さん、奥さま、お子さま3名)、副代表の藤田さんにもお越しいただき、保けん野菜の畑でのイベントとしては最大人数での開催となりました。本日はそんな“ノウ地巡礼”の様子をお届けさせて下さい。

開催の背景

今年の6月、皆さまへ野菜をお届けいただいている、ないとう農園(埼玉県伊奈町)の内藤さんが“内藤農園”というペンネームで第12回小島信夫文学賞を受賞されたという、驚きの嬉しいニュースがありました🎉

このニュースを知り、純粋にお祝いをしたいという思いに加え、もっともっと内藤さんを知ることで普段いただいている野菜をまた違った感覚で食べられるのではないか、そんなことを思い、小説が生まれたノウ(農)地であるないとう農園さんを、そして生みの親である内藤さんのノウ(脳)内を巡る、そんな時間を皆さんと一緒に過ごす“ノウ地巡礼”を行うことにしました。


イベントのテーマ “affordance(アフォーダンス)”

受賞作品のタイトル「あほーだんす」の元となっている言葉です。「与える、提供する」という意味を持つ「afford(アフォード)」をもとにした造語で、wikipediaには以下のような説明が掲載されています。

環境が動物に対して与える「意味」のこと (wikipediaより抜粋)

少し分かりにくいかもしれないですが、主語を私たちにして捉えなおすと、以下のように考えられるのではないかと思っています。

私たちは自分自身の主体的な判断によって行動をしているように感じるかもしれないが、実際は周囲の様々な環境や状況により行動の選択肢が提示され、行動が誘発されている。

イベントでは、開催の背景に記載した「ノウ(農)地とノウ(脳)内を巡る」ことに加え、小説に凝縮されているこの“affordance(アフォーダンス)”を感じてもらうことをテーマに据えて開催いたしました。


イベントの流れ

参加予定の皆さんには事前に「あほーだんす」をお届けし、参加前に読んでいただくことからイベントが始まります📕そして当日は、夕方ないとう農園さんの畑に集合し日暮れ過ぎの解散まで、ノウ(農と脳)をじっくり堪能する時間を過ごしました。

  • イベント参加前の「あほーだんす」の読書

  • ないとう農園さんに集合

  • 畑をご案内いただきながら野菜を収穫

  • 畑で穫れた野菜を堪能

  • 「あほーだんす」の読書会

  • イベントのテーマ “affordance(アフォーダンス)”を振り返って終了

事前にお届けした1冊づつ異なる表紙で製本をした「あほーだんす」

当日の様子

ここからは、当日の様子を時系列でお伝えさせてください。


<ないとう農園さんに集合>

さいたま市に近接し、住宅地から徐々に畑が広がり始めるエリアにあるないとう農園さん。いくつかのエリアに分かれた合計3haほどの畑で野菜を作られていますが、その中でも大宮駅から15分の最寄り駅からほど近いエリアをお借りして、イベントを開催いたしました。

日が少し傾き始めた15時半頃、畑の片隅に集合し、まずは参加者の皆さん、ないとう農園の皆さんの顔合わせを行います。写真の奥には何件かの家の屋根が垣間見え、住宅地と隣接している畑というのを感じていただけるのではないかと思います。

畑の片隅での顔合わせ

皆さんに収穫用のかごや軍手をお渡しし、歩いて畑に向かいます。写真は移動し始めてすぐの場所なのですが、住宅地と隣接していることを忘れるような景色になってきました。

収穫かごを片手に畑に向かう

<畑をご案内いただきながら野菜を収穫>

まずは里芋畑をご案内いただきました。畑に到着すると、トトロの傘に似た大きな葉に驚きの声が上がったのですが、内藤さん曰く、今年は猛暑に加え雨が少なかったことが影響し、葉の丈は例年の半分ほどとのこと。芋の付き具合も、例年の1/4程度になりそうということでした。

里芋についての説明を伺う

根元を掘り起こして出てきた芋を見ながら、最初に植えた種芋、そこから1つだけできる親芋、親芋から出てくる子芋、さらに孫芋…、と、芋の付き方について教えていただき、皆で1つひとつ里芋を取り分けていきます。参加者の中には、栽培していただいたものを収穫するに留まらず、自宅のプランターで育てられないか?と考え、相談をする方も👩🏻‍🌾


次にご案内いただいたのは、かつお菜、大根の畑です。かつお菜は少し馴染みが薄いかもしれませんが九州地方の伝統野菜で、旨味の多い葉物野菜です。1つの株から何枚も葉が育ってくるため、成長した葉を1枚ずつちぎっていきます。また大根はまだ根っこが膨らむ前の小さな葉ですが、間隔が狭く栄養が行きわたらないものを間引き、間引き菜をいただきます。

かつお菜・大根についての説明を伺う

収穫をしながら、穫れたてを思わずその場で頬張ります。茎の部分は特に瑞々しく、後からくる旨味、塩味(えんみ)と共に味わいました。


最後にご案内いただいたのは、タイニーシュシュというミニ白菜の畑です。今年は雨の少なさから、虫が多く出てしまったとのこと。それでも、しっかり立派なタイニーシュシュが育っていました。

今年の猛暑と雨の少なさは、夏に播いた種や植えた苗が育たなくなってしまいやり直しをしたり、雨を利用しての水やりができず、ないとう農園さんを始めて以来初めてという水やりをしたりと、本当に多くの影響があったそうです。これまでに経験がない気候だった中、ないとう農園さんを始め多くの農家さんが、とても難しい判断を迫られる状況に直面していたのだと、改めて実感をするお話でした。

タイニーシュシュの収穫方法レクチャー

タイニー(小さい)シュシュ(お気に入り)という名前からイメージしたサイズ感をはるかに超え、両手で抱えるほどのミニ白菜でした。


収穫をさせていただいた野菜以外にも、オクラの花、収穫前の菊芋(地上の茎や葉が枯れてから土の中の菊芋を掘るとのこと)、大豆に向かいつつある枝豆など、この場でなければなかなか見ることができない野菜の姿に出会うことができました。


<畑で穫れた野菜を堪能>

畑を巡り収穫を終えたら、今後は畑で穫れた野菜で作った「焼き芋」と「お味噌汁」を堪能させていただきました。

実は焼き芋は元々ご用意いただく予定はなかったのですが、畑で食べる焼き芋をぜひ一緒に味わいたいと、ご厚意で急遽ご用意いただいていました。


お味噌汁は、里芋、タイニーシュシュ、人参、ねぎ、そして大豆も含めて内藤さん自家製の味噌で作っていただいたもの。一緒に畑を巡り、少し疲れた体で、その畑で穫れた野菜で作ったお味噌汁を、皆でいただく、という最高の時間を過ごさせていただきました😌


<「あほーだんす」の読書会>

美味しい焼き芋とお味噌汁をいただいた後は、内藤さん(ペンネーム“内藤農園”)の受賞作品「あほーだんす」の読書会です。まずは内藤さんから、執筆に至った経緯を教えていただきました。

以前から小説を書きたいと思っていたということではなく、たまたま大好きな小島信夫さんの文学賞があるということを知り書いてみた、というのが実際のところ。賞の存在に気付いたのが4月、提出締め切りが6月末と執筆期間が3カ月を切っていたことに加え、農業も繁忙期ということで、毎日3時起きで農作業を始めるまでの数時間を使って書き上げたが、感覚としては、尊敬する小説家である小島信夫さんに「書かされている」という表現が近いかもしれない。
「あほーだんず」についてお話いただく内藤さん

その後は、参加者が小説を読んだ感想を共有したり、内藤さんに聞きたいことを質問したり、という時間を過ごしました。その中からいくつかを抜粋してお伝えさせてください。


ご自身も農業をやられているという参加者からは、以下のような共感の声が。

私自身が日々見ている景色や感覚などが、本当にぴったりと言語化されたような表現がちりばめられていた。農家っぽい視点で書かれたものではなく、農家の視点で書かれた作品なのだと感じた。

ご自身も小説を書かれているという参加者からは、“リズム”という新たな視点での捉え方を共有いただきました。

小説にリズムを感じた。それはもしかすると、多品目の野菜を育てるという行為がオーケストラの指揮者のような存在で、日常的に刻んでいるリズムのようなものがあるのかもしれない、と思った。

参加者から出た質問にも、意図や背景をお話しいただきました。


小説全体の構成をどのように構築していったのか?

全体像を設計してから書いたのではなく、書きたいことを書いていった。途中、大好きなサミュエル・ベケットの小説『モロイ』に自然と似てきてしまっていることに気づいた。そこから似ないように修正をするのではなく、似てしまうのを受け入れ、似ていることが必然となるような構成として、主人公「ぼく」を育て上げた「妹」の教典が『モロイ』であるという設定にした。これにより、もしかすると少し複雑な構成を感じるものになっているかもしれない。

途中で登場する女性の描写が印象に残っているが、どのような意味を持っていたのか?

“登場人物や情景などに意味を持たせない”ということを意識して書いていた。社会問題を扱うような明確なメッセージの作品や、分かりやすいテンプレに沿った作品にならないように、そのものをあるがまま受け取るということを考えた。作品中でも、いい声質の男性の声から「意味」だけを引き離し純粋に声質だけを味わおうとする、というシーンなどは、それを体現している。

描かれている場所は、実際に存在するどこかがモデルとなっているのか?

1か所だけ、長屋についての描写は実在した場所だが、それ以外は特に実在するどこかを描いたものではない。町から町へ移動する時に広がる情景の変化は、海外旅行で町から町へ歩いた時の景色の移り変わりが反映されているかもしれない。


内藤さんのお話を伺う中で、小説を書いたという行為自体が小島信夫さんに「書かされている≒アフォードされている」という感覚を持たれていたこと、意味を持たせないことを意識して書かれた小説には、タイトル通り「アフォーダンス」が詰まっていることなどから、この小説そのものに内藤さんが強く投影されているのではないか、と思いました。

周辺のエリアでも農業をしっかり続けていける農家さんが極めて少ないという中で、現在のないとう農園さんがある背景には、ご自身の意志で様々なチャレンジをしながらも、必然的にやっている、様々な環境の影響で動かされている、というとても客観的な感覚を持ち合わせているということがあるのかもしれない、と感じさせられる時間でした。


<イベントのテーマ “affordance(アフォーダンス)”を振り返って終了>

今回の“ノウ地巡礼”では、「ノウ(農)地とノウ(脳)内を巡る」ことに加え、小説に凝縮されているこの“affordance(アフォーダンス)”を感じてもらうことをテーマに据えていたということは前にも触れました。

そのための仕掛けとして、実は畑を巡り収穫をする時間の中で、皆さんには畑にある「究極やさい」を探してもらうようお願いをしていました。この「究極やさい」、これが正解というものが畑にあるわけではありません。何か分からない畑にあるはずのものを探すことで、畑をよく観察したり、内藤さんに色々と質問をしたり、周囲の方と議論をしたり…、結果的にないとう農園さんについての理解が深まるという状態をアフォードできるのではないか、と考えてのことでしたが、実際には、内藤さんの話を聞いたり、夢中になって収穫をして過ごしていたため、「究極やさい」を探すということはあまり意識しない時間となっていたかもしれません😅


また内藤さんからは、1つの究極の形として「一緒に畑を巡り、少し疲れた体で、その畑で穫れた野菜で作った、皆でいただくお味噌汁」を用意いただいていた旨をお話しいただきました。アフォーダンスというテーマからは外れますが、この自分にとっての「究極」を考えてみることで、新たな野菜の、ひいては食の価値や向き合い方を見つけるきっかけになるのではないかと思っています。


最後に本と一緒に集合写真を撮影すると、参加者の方の声で自然とサイン会が始まり、サインをし終えたところでイベントも終了となりました。

野菜を育てていると、今年の猛暑や雨不足のように自分ではコントロールできない様々なことが起こります。そのようなことと向き合う感覚を、内藤さんは“サーフィン”と表現されていました。防波堤を作り高波を制することを目指して戦うのではなく、恐ろしさを正しく認識した上で波を読み、うまく活かし乗りこなして共存をする。農業をされている方にとっては当たり前の感覚かもしれませんが、多くの方にとって必要な、とても大切な感覚ではないかと思っています。

今回、内藤さんの受賞をきっかけに、「ノウ(農)地とノウ(脳)内を巡る」というテーマで“ノウ地巡礼”を開催しましたが、送っていただく野菜を食べているだけでは感じきれない、内藤さんを、ないとう農園さんを、野菜を、それぞれに感じていただく場になっていたら幸いです。それぞれの感覚、体験が積み重なっていく、そんなきっかけを、保けん野菜としてこれからもお届けできるよう、これからもサービスを磨いていきたいと思います。

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