“農政の憲法”改正に向けた動き ~不測時の食料安全保障~
- 秋山 智美
- 2023年11月4日
- 読了時間: 4分
前々回、前回と、「食料・農業・農村基本法」の改正に向けた動きについてお伝えさせていただきましたが、今回がこのテーマの最終回となります。改正検討のフックとなっていたであろう、不測時の食料安全保障についてお伝えさせてください。

不測時の食料安全保障についての危機感の高まり
前々回のブログでも少し触れさせていただきましたが、今回の法改正に向けた検討の背景には以下のような背景からの、危機感の高まりがあげられています。
日本の国際的な経済的地位の相対的低下(国際的な購買力の低下)
異常気象や気候変動による食料生産の不安定化(世界同時不作の可能性)
食料生産の不安定化に伴う価格の変動幅の増大(価格高騰時の買い負けのリスク)
地政学的リスクの増大(ウクライナの問題のような、紛争によって発生する食料供給の不安定化)
新型コロナウイルス感染症等の世界的拡大によるロックダウンに伴う物流の途絶
BSE、豚熱、鳥インフルエンザ等家畜疾病の発生等に伴う供給途絶
これまで以上に「不測時」が発生する原因が多様化していることに加え、中でも、このタイミングで急いで検討が進められた背景としては、恐らく外交上の理由からか明言はされていませんでしたが、やはり台湾有事を念頭に置いてのことかと思います。不測時の食料安全保障のリスクについて、政府や農林水産省の資料では「想定されなかったレベルに達している」「発生する蓋然性が高まってきている」というような表現がされており、不測時の食料安全保障が今回の改正のメインであろうということが見て取れます。
現状における不測時の食料安全保障指針
現在の食料・農業・農村基本法では、不測時の食料安全保障に関する以下の条文があります。
(不測時における食料安全保障) 第十九条 国は、第二条第四項に規定する場合(※)において、国民が最低限度必要とする食料の供給を確保するため必要があると認めるときは、食料の増産、流通の制限その他必要な施策を講ずるものとする。 ※国民が最低限度必要とする食料は、凶作、輸入の途絶等の不測の要因により国内における需給が相当の期間著しくひっ迫し、又はひっ迫するおそれがある場合
またこれとは別に、政府として講ずべき対策の基本的な内容などを示した「緊急事態食料安全保障指針」により、以下の内容が決定されています。<>内は根拠となる法律です。
レベル0:レベル1以降の事態に発展するおそれがある場合 ‐食料供給の見通しに関する情報収集・分析・提供 ‐備蓄の活用と輸入の確保 ‐規格外品の出荷、廃棄の抑制などの関係者の取組の促進 ‐食料の価格動向などの調査・監視
レベル1:特定の品目の供給が平時の供給を2割以上下回ると予測される場合を目安 ‐緊急の増産<国民生活安定緊急措置法> ‐生産資材(種子・種苗、肥料、農薬)の確保<国民生活安定緊急措置法など> ‐買い占めの是正など適正な流通の確保<買い占め等防止法など> ‐標準価格の設定などの価格の規制<国民生活安定緊急措置法>
レベル2:1人1日当たり供給熱量が2,000kcalを下回ると予測される場合を目安 ‐熱量効率が高い作物などへの生産の転換 ‐既存農地以外の土地の利用 -食料の割当て・配給及び物価統制<物価統制令、国民生活安定緊急措置法、食糧法> -石油の供給の確保<石油需給適正化法>
不測時の食料安全保障に関する改正の方向性
前述の「緊急事態食料安全保障指針」から、緊急時にスムーズに対策を講じていくにあたりボトルネックとなることが想定されるのが、主に以下の二点かと思います。今回の改正においては、これらを解消する内容が盛り込まれるのではないかと考えています。
対応策として指針に記載をしているが、法的根拠のないものの対応 前述の方針において太字で記載をした「熱量効率が高い作物などへの生産の転換」「既存農地以外の土地の利用」については、食料・農業・農村基本法にも明示されておらず、法的根拠はない状態となっています。
農林水産省以外の各省庁管轄の法律に関わる対応 前述の方針の<>内に記載をした通り、それぞれの対策を講じるにあたり関連する法律が多岐に渡っており、それぞれの管轄省庁との連携が必要となってきますが、意思決定体制の整備ができていません。
不測の事態は起こらないことを願いたいですが、起こってしまう可能性を念頭に置きながら、個人として、保けん野菜として、生活の中で備えておくことを改めてしっかり考えていきたいと思います。


