日本における農薬の使用・残留基準
- 秋山 智美
- 2024年9月14日
- 読了時間: 6分
更新日:2024年9月14日
保けん野菜の加入者さまには子育て世代の方も多く、お子さまの誕生を機に食について考えられる機会が増えたという方も多いのではないかと思います。野菜の安全性を考えた際に真っ先に思い浮かぶであろう“農薬”について、ここ数年メディアで目にすることも多い国際比較の観点をメインに、お届けさせてください。

野菜の安全性については、以下のブログでも記載させていただいております。重複する内容もございますが、ぜひ併せてご覧いただければ幸いです。
農薬とは
農薬は農薬取締法で以下のように定義されており、食酢、重曹、エチレン、一部の次亜塩素酸水、一部の天敵を除き、審査をパスして登録されたもののみ使用が可能です。
農作物を害する菌、線虫、だに、昆虫、ねずみ、草その他の動植物又はウイルスの防除に用いられる殺菌剤、殺虫剤、除草剤その他の薬剤及び農作物等の生理機能の増進又は抑制に用いられる成長促進剤、発芽抑制剤その他 の薬剤をいう。 前項の防除のために利用される天敵は、この法律の適用については、これを農薬とみなす。
※「農薬取締法 第二条」より抜粋
登録に当たっては、農林水産省による品質、薬効、農作物への安全性の審査、内閣府食品安全委員会、厚生労働省、環境省、農林水産省で、人や環境に対する安全性の審査を行います。登録の有効期間は3年間で、再登録の際に新たな科学的な知見が明らかになっている場合は、新たに試験結果をもとに審査を行うことになっています。
食品中の残留農薬の基準値
それぞれの農薬には、安全や環境保全を加味して定められた使用方法(使用して良い作物、希釈倍数、使用量、使用回数、使用時期など)があります。この方法で使用した際に残留しうる農薬の量が、日本における食生活を鑑みて以下のいずれも超えない、という基準が設定されています。人により感覚が異なるかもしれませんが、個人的にはしっかり厳しい基準が設定されているのではないかと感じています。
毎日一生涯にわたって摂取し続けても健康への悪影響がないと推定される一日当たりの摂取量 (動物実験により得られた安全基準値の1/100の量)
24時間又はそれより短時間の間に摂取しても健康への悪影響がないと推定される量
この基準となる考え方はコーデックス基準という国際基準で定められており、基本的に各国がこの基準に照らし合わせて設定をしています。このように同じ考え方をベースに基準を設定しているにも関わらず、海外と比較して以下のような情報を耳にしたことがある方もいらっしゃるのではないかと思います。
日本は残留農薬の基準が甘い
日本は使用できる農薬が多い
日本は農薬の使用量が多い
それぞれ、本当なのか?もし本当だとするとなぜそのようなことが起こるのか?について、お伝えさせてください。
日本は残留農薬の基準が甘いのか?
前述の通り、基本的に主要各国では同じ考え方をベースに基準値を設定しているため、日本が特別甘いということは無いと考えています。しかし、各作物別、農薬別の残留基準を確認していくと、国により数値が異なるものも多くあることが分かります。 この違いは主に、食生活(当該の国で食べられる量や調理法の違い)や、検体(玄米を基準にしているか、精米後の米を基準にしているかなど)だと考えています。例えば、韓国と日本を比べると、トウガラシの残留農薬基準は韓国の方が厳しく、日本の方が甘い、というような違いです。
日本は使用できる農薬が多いのか?
使用できる農薬が多いというのは事実です。高温多湿な気候の中で、美味しい野菜を安定的に栽培するために、日本では様々な農薬が開発されてきました。しかしそれは一概に、日本の基準が緩いということにはなりません。登録された農薬のみを利用できるポジティブリスト制度と呼ばれる運用をしている国が増えてきており、各国の環境などにおいて利用する必要がない農薬はわざわざ登録をしません。そのため必然的に、日本では利用できるが海外では利用ができないという農薬も多くなります。
日本は農薬の使用量が多いのか?
これも比較的多い、というのが実態です。しかし毒性を揃えて比較をしている訳ではないので、毒性の弱い農薬を多く利用していても「使用量が多い」という表現になってしまい、危険性と比例しているものではありません。また単位面積当たりの使用量では、狭い国土で単位面積当たりの収穫量を増やす必要がある国において、比較的使用量が多くなります。
以下は主要国、比較対象として分かりやすい国をピックアップして、1ha当たりの農薬使用量(kg)の推移をグラフにしたものです。日本と気候が近い韓国や台湾、施設園芸を含め集約した農業を行ているイスラエルやオランダが多いのが分かります。(ピックアップをした主要国以外も含めると、日本は世界の中で10~20番目くらいに多いという年が多いです。)

Food and Agriculture Organization of the United Nations https://www.fao.org/faostat/en/#data/RP のデータをもとに作図
農薬の利用についての私自身の考え
ここまで、農薬を利用していても基準の範囲内であれば安全なので安心してください、というメッセージに聞こえてしまっているかもしれませんが、推進をしたいと思っている訳ではありません。
安全性という観点では、例えば以下のようなリスクはどうやってもゼロにはできませんが、「何となく怖い」ではなく、「リスクがあるとしたらこの程度、こんなケース」ということを踏まえて、それぞれが適切に選択いただけたらと考えています。
把握しきれていない危険性が後から明らかになる可能性
散布の偏りなどによる基準値を超える可能性(設定している基準が十分低いので、超えたとしても影響は大きくないことが多いとは思っています)
散布をする方への健康影響の可能性
また、安全性という観点だけではなく、出来るだけ自然の力を活かして栽培された野菜の方が気持ちが良い!(そもそも農業自体が自然ではないですが)という感覚的なものも、私自身の選択においては大切になっています。
現在、保けん野菜の協力農家さんでは化学農薬や化学肥料を利用していませんが、利用ゼロの農家さんのみと協力をしていくべきか?というと、そうでは無いのではないかと思っています。しっかりとした考え方を持って、場合によっては特定の農薬に限って必要最低限で利用することがある、という協力農家さんも、もしかしたら今後出てくるかもしれません。その際は、皆さまにもしっかり背景をお伝えの上でと考えています。


