国際ルールから読み解く、米国産じゃがいも輸入協議の全体像
更新日:6 日前
前回は、じゃがいもの産地を長年悩ませてきたシストセンチュウと、その歴史をご紹介しました。今回は、米国産じゃがいもの輸入をめぐる日米の協議について、その前提となる国際的なルールや、協議の全体像を整理してお伝えできればと思います。
※ぜひ、以下の内容も併せてご覧いただければ幸いです。
🚢現在の生のじゃがいもの輸入状況
日本では、国内の農業に被害を与えるおそれのある病害虫が入ってこないよう、植物防疫法に基づいて、病害虫のリスクに応じた対策をとっています。目で見て見つけやすい病害虫であれば輸入時の検査で対応しますが、見つけにくく入り込んだ場合の被害が大きいものについては、その病害虫が付く植物の輸入そのものを禁止しています。前回ご紹介したシストセンチュウはその代表例で、生のじゃがいもは一部を除き、原則として輸入できません。
現在、食用として輸入が認められているのは、米国産のポテトチップ加工用だけで、以下のような一定の条件をクリアしている場合に限り、2006年から輸入が始まりました。
シストセンチュウが発生していない地域で生産すること
密閉したコンテナのまま港の近くの加工施設へ運ぶこと
130度以上の油で2分以上揚げること
また輸入解禁当初は、輸入できる期間が2~6月に限定されていましたが、2020年2月にこの期間の定めは削除されています。そして今回、米国から求められ協議を行っているのは、スーパー等に並ぶ一般流通用の生のじゃがいもの輸入です。
🌐輸入協議を進める必然性
前回ご紹介させていただいた通り、生のじゃがいもの輸入には大きな病害虫のリスクが存在します。しかし、日本はWTO(世界貿易機関)に加盟しており、植物検疫については「SPS協定」というルールに従う必要があります。この協定では、検疫の措置について、主に次のことが求められています。
科学的な根拠に基づくこと(十分な根拠のないまま規制を続けない)
不当な差別をしないこと(病害虫の状況が同じなら、特定の国や輸入品だけを厳しく扱わない)
国際的な基準がある場合は、それに基づくこと(科学的な理由があれば、より厳しい対策も認められる)
検査や承認などの手続きを、不当に遅らせないこと
これに従わない場合、相手の国はWTOに訴えることができ、ルール違反と認められると、検疫のやり方を改めるよう求められます。実際に日本は過去、米国産りんごの検疫をめぐってWTOで米国と争い、日本の対策は科学的な根拠が十分ではないとされ、見直しを求められた経験があります。この時は日本が対策を見直すことで決着しましたが、もし改めなければ、WTOの紛争解決のルールに基づき、相手の国が日本からの輸入品の関税を引き上げるなど、対抗措置をとることも認められています。
厳しいルールに感じられるかもしれませんが、日本にとって不利なだけのものではありません。もし各国が自由に検疫の条件を決められるとしたら、「病害虫を防ぐため」と言いながら、実際には自国の農家を守るために輸入を止める、ということも起こりかねません。このルールがあることで、日本が農産物を輸出する時も、科学的な理由のない制限を受けずに済みます。そして何より、病害虫のリスクを十分に抑えられることが科学的に示されない限り、日本も輸入を認める必要はないということでもあります。
☝🏻輸入解禁までの3つのステージ
日本では、海外からの輸入解禁の要請に対して、どのような手順で検討するかを「標準的手続」として定め公表しており、大きく3つのステージに分かれています。
ステージ1 要請を受け付け、その作物を通じて入ってくる可能性のある病害虫を洗い出す
ステージ2 それぞれの病害虫について、日本に入り込む可能性や、入り込んだ場合の被害の大きさを評価し、対策が必要な病害虫を特定する
ステージ3 病害虫ごとの具体的な対策を相手国と協議し、関係者への意見聴取や、相手国で対策を確実に実施できる体制が整っているかの確認、パブリックコメントを経て、輸入の条件を決める
この手続きには、「ここで不許可とする」という段階はありません。その代わり、十分な対策が科学的に認められなければ、先に進むことはできません。また、手続きにかかる時間も案件によってさまざまで、米国産のピーマンとなすは、1996年2月に要請を受け付けてから30年以上が経った今も、病害虫を特定する段階に進んでいません。
📍輸入協議の現在地
米国は、東アジアでは既に韓国や台湾に一般流通用の生のじゃがいもを輸出しており、日本に対して輸入解禁を改めて要請したのは、2020年3月のことです。
農林水産省は、米国で栽培されるじゃがいもに付く可能性のある約300種の病害虫の中から、米国で発生していて日本にはいない54種を特定し、リスクを評価しました。その結果、33種はリスクを無視できるとされ、残る21種について、通常の検査以外の対策が必要になりうるとしました。前回ご紹介したシストセンチュウも、この21種に含まれています。2026年9月にはこの21種のリストが正式に公表され、ステージ2までが完了しています。協議は今後、21種それぞれについて具体的な対策を話し合う、ステージ3へ進みます。
報道によると、米国の政府機関からは手続きを早めるよう求める要請もあったとされています。ただ、輸入から加工まで閉じた環境で処理されるポテトチップ加工用と異なり、一般流通用の生のじゃがいもは店頭に並び、各家庭に広く届きます。農林水産省も、栽培に使われる可能性があるため、そのリスクも加味した対策が必要だとしています。
協議の行方は、まだわかりません。ただ、国際的なルールの上では、病害虫のリスクを十分に抑えられることが科学的に示されない限り、輸入は認められないことになっています。これから、21種それぞれについて、どのような対策が示されていくのか。現時点で解禁が決まったわけではないからこそ、その中身に関心を持って見守っていきたいと思います。大きな動きがあれば、改めてお伝えさせてください。
※参考資料
